巨大ビステッカ？　その１

　フィレンツェの名物料理に「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」と言うのがあります。要するにステーキなのですが、形態としては骨付きのＴボーンステーキと言う事が出来ます。
　しかしです、このメニューをよくご覧下さい。Kgという表記が見て取れますが、それは１Kgもある巨大なステーキなのです。もう少し詳しく説明すると･･･生後一年以内の子牛肉の骨付き肉の厚切りを、炭火で焼き上げたフィレンツェ風のステーキと言うことになります。
　そのビステッカを食べるために、イル・ラティーニというトラットリアにやって来ました。ガイドブックでも紹介されているお店なので、実際は如何なものか？と不安も入り交じりながら店内に入りました。入った途端に目立つ日本人観光客･･･やっぱりなあ、でも地元の人も結構入っているのが確認出来て、その不安も少し解消です。

　薄暗い店の天井には生ハムがぶら下がっています。一見ダミーの飾り物？と疑ってしまいますが、多分というか絶対本物でしょう。
　とりあえずビステッカはＨさん夫妻と4人でシェアする事にしました。プリモは各自一皿ということで、私はリボリータ、妻はミネストローネをオーダーしました。昼食だったし下戸メンツばかりなのでヴィーノと前菜は割愛です。

　最初にお決まりのパンが運ばれてきます。見た目は普通のパンですが、これは塩を使わないトスカーナ地方独特のパンです。知らずにちぎって口に入れると大きな違和感に襲われます。粉の味はするのですが、塩気がないので旨味を感じることが難しくなります。塩味の強い料理やソースと組み合わせると、その塩気の無いパンがバランスを保ってくれると言う事なのでしょうか。

　プリモの登場です。まずこれはミネストローネ。がさつなトラットリアの給仕が運んできたせいで、スープがお皿の縁まで波打ったらしく、オイルの痕が気になります。まあいいか。お味は･･･。普段ミネストローネと称して食べているものとは雰囲気が大分違っています。野菜も大振りでスープもこってり濃厚です。時間をかけて煮込んだスープと表面を漂う少し多めのオリーブオイルのお陰でパンチのある一皿になっています。
　美味しいです。イタリアの野菜の旨味をとことん堪能できました。

　お次はリボリータです。トスカーナ地方の郷土料理で、インゲン豆と野菜のスープに例のパンを入れて調理したパン粥風の料理です。
　この旅の目的の一つは本物のリボリータの味を確かめることでした。日本で抱いていたイメージはスープでした。しかし出てきたのがこれです。確かにパン粥、ドロッとした離乳食のような形態です。
　それではとスプーンを口に運んだ次の瞬間、複雑な味わいが口の中に広がりました。豆がいます。野菜がいます。ベースにあのトスカーナパンもいます。出汁は生ハムかな･･･、身体が温まり、元気になってきます。
　豆も重要な主役ですが、もう一人立役者が存在していました。黒キャベツ「カーボロ・ネロ」です。トスカーナの料理に頻繁に顔を出すイタリア野菜の重鎮です。これがまたとてもいい味を出しています。豆があって、カーボロ・ネロがあって初めてこのリボリータが完成するのです。
　我が家のカーボロ・ネロは今年の寒さで壊滅状態です。種を買って帰って次のシーズンは増産体制に入りましょう。
　プリモが済んで、さあいよいよ主役の登場を待ちます。少し離れた席の日本人のテーブルにはすでにそれが運ばれているようで、おっきい、うっそー、こんなに食べられなーい･･･と阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れていました。