４０年振りのトランペット

　久しぶりにオークションでポチッと入札してしまいました。ゲットしたのが写真のトランペット。Ｃ・ブラウンのトランペットのＣＤではありません。リアルなトランペットです。
　何を隠そう（隠す意味は無いですが･･･）私はラッパ吹きだったのです。ほら吹きじゃあないです。大昔高校生の頃ブラスバンドでブンチャカやっていたのです。県大会、関東甲信越大会、そして譜門館を目指して日夜唇を腫らして精進していた真面目な高校生だったのです。
　まあ真面目だったのは私だけで、他の部員の楽器を借りるとタバコ臭くて閉口したものですが･･･。
　でも、高校卒業後はぱったりと楽器から遠ざかりました。しばらくして娘が小学生の時、ブラスバンドに入ったのです。最初は背丈が大きいだけの理由でトロンボーンをやらされたのですが、父の栄光を耳にして、やがてトランペットにコンバートしました。
　その時に実はトランペットをいじる機会が訪れました。娘のためにトランペットを購入したからです。マイトランペットは持ってなかったので、この時すでに１５年ほどのブランクがありました。
　娘に買ったトランペットなので練習も再開せずに、たまに「音はこうやって出す！」とかノタマワリつつ「ペー！」とか貧弱な音を出すのが関の山でした。
　中学に入った娘は結局ブラスバンドには入らず、運動部に行って、トランペットは再び陽の目を見ずに押し入れの肥やしになりました。
　そしていつの日か友人との物々交換でＬｕｘ-Ａ３５００に変身して我が家を去って行きました。
　還暦も過ぎ、半分老後の世界に踏み込んだ今、何か呆け防止によいことをせにゃあかん、音楽が良いかもと、いろいろ考え初めていました。特に指を動かす楽器は、脳梗塞気味のフレキシビリティとレスポンスの劣った手指のリハビリには打って付けだと勝手に判断、手始めにリコーダーなどピーピー始めました。
　それとは別の話ですが、近所の家からトランペットを練習する音が聞こえてきます。高校生のお子さんが吹いています。それを聞いていると青春時代が蘇ってきました。
　そうだ、トランペットならリハビリが出来るかも知れない、何たって昔やってたんだから（４０年以上も前ですが･･･）と言うわけで、ヤフオクでポチッとしてしまった訳です。
　入札したのはNikkanのTR-135といういわゆるカレッジモデルの入門器です。70年代の前半製で、実はYAMAHAのOEMなのです。正確に言えばYAMAHAの管楽器のルーツはNikkanだったりするので、YAMAHAでもnikkanでも良いのですが･･･。
　この機種は抜き差し管のトリガーが省かれていたりして、シンプルな安物なのですが、YAMAHAとしては初期の気合いの入った楽器で、結構素直で鳴りが良いと評判は上々です。
　とてもリーズナブルな落札価格で落とした楽器が届きました。写真ではゴールドラッカーのようですが実物はニッケルメッキです。傷一つないきれいな楽器でした。届く前に心配していたのは
「いやだな、一度掃除しないと吹けないし、管の中からドロドロの液体が出てきたらどうしよう、昔楽器洗いの時に、ヘドロのような得体の知れない液体が曲がりくねった暗い管の中から出てくるのが、とってもいやだった･･･」
事です。
　でもその心配はありませんでした。30数年は経ってるかも知れない楽器ですが、まるで楽器店のショーケースに昨日まであったかのようです。ピストンにも大きな傷やこすれが見られません。スライド部分もきれいです。
　驚いた事に付属していた純正のバルブオイルが未使用に近い状態だったのです。
　多分これは買ってまもなくほとんど使われずに押し入れに仕舞い込まれていたのかも知れません。
　数十年振りに陽の目を見た楽器が、40年以上もブランクのあるヘタな吹き手に運命を委ねることになりました。ヘタな吹き手は、まずマウスピースで「ブスッ！」「ビヤー、ブリビリ！」とこの世の音とは思えない音響を発しました。
　音に敏感な愛犬が、しっぽをだらりと下げて、怪しい音に怯えるように家の隅をこそこそ歩き回っていました。