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錦秋の上高地から乗鞍へ 3

 白骨の朝は静かに明けた。早朝の澄んだ空気は寒気のせいでかなり冷え込んでいた。空は快晴とは言えないが十分に晴れていて、でも残念なことに山の天辺を薄黒いガスが覆っていた。寝ぼけ眼をこすりながら朝風呂に向かう。すでにHさんが入っている。
 大きなガラス越しに見える山肌の木々の紅葉が心なしか進んだ様に見える。気のせいかもしれないが、そのペースで一週間すると、多分全山紅葉する。紅葉前線は眼に見えるぐらいのスピードで南下してくるようだ。

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 朝飯も粋なものだった。白眉は鮎の一夜干しだ。小振りの鮎を開いて、程よい塩をして軽く乾燥したのが、小さな網の上にのせられている。固形アルコールに点火して、加熱する。鯵の干物をあぶるのと一線を画す上品な香りがしてくる。焦げないように、且つ全体に程よく火が通るように、適当に裏返すようにと仲居さんからの指導を受け、みな忠実に教えを守ってせっせと魚を裏返す。
 火が通ったところでガブリと食す。鮎のほのかな芳香と、良い塩梅で、魚の旨みが頂点に達している。15cmほどの可愛いサイズの開きはあっという間に頭と尻尾に変身。もう少し食べたい・・・あとをひくのを我慢する、そんな余韻も料理の旨さの演出かも知れない。

 さあ、今日は旅の最終行程。天気がまあまあなので乗鞍岳を経由して奈川に出て、新そばを食べて帰ることにする。
 宿の横は乗鞍のスーパー林道。平日の早朝で車が少なく快適だ。残念ながら乗鞍岳の山頂付近はガスっている。山頂行きのバスには乗らないことにした。鈴蘭平辺りを散策する。
 さすがにこの付近の紅葉は進んでいて、上高地よりも色付きがぐっと良い。とりあえず大駐車場の辺りまで行って引き返し、途中滝見物などして乗鞍岳の中腹を後にし、白樺峠経由で奈川の方へ向かった。
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 奈川の集落に入ったところに新しくそばを食わせる所が出来た、とW大先生。でも残念ながら本日休業の看板が出ていた。
 結局村の中心にある大きな食堂でそばを食べることにした。でもこれは大正解。採れたばかりの新そば粉を、地元の元気一杯のおばさんが目の前で打ってくれる。しばらく待たされて出てきた蕎麦をすする。皆無口。ズルッズルッと言う音だけが辺りを支配する。注文したのは大ザルだ。ザルといっても刻み海苔がかかってるわけじゃない。いわゆる盛りの状態だが、大ザルの場合セイロで2枚出てくる。1枚がお上品でケチな店のセイロよりよっぽどボリュームがあるので、2枚食べると結構満腹になる。W氏とH氏は更に普通のセイロを注文して都合3枚強食べた。
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 蕎麦はいわゆる外一というやつで、10%のうどん粉を加えて練り上げた生地で、つるんとしたのど越しが楽しめる。熟練したおばさんの伸した蕎麦は薄くて透けて見えるくらいの厚みだ。5尺程もあろうかという、佐々木小次郎もびっくりののし棒一杯に生地を広げるのだから、その業の素晴らしさが計れる。で、打ちあがった蕎麦は文句無く旨い。
 新そば粉を買って帰りたかったが残念ながら在庫なし。実は蕎麦を打つのではなく蕎麦がきを食べたかったのだ。前夜白骨で供された蕎麦がきが絶品だった。クリーミーに練り上げられたそれは、まるで上品なお菓子のようで感動した。まあ難しいかも知れないが、蕎麦を打つより簡単かも知れないのでチャレンジしてみたかった。

 蕎麦をお腹にたっぷり詰め込んで、車は木曽路目指して山を下る。薮原で19号線に出て、鳥居峠を越えて奈良井宿へ。妻の要望で宿場見物。平日で人は少なかったが、何やら工事中で、コンクリートを砕く削岩機の音が江戸の佇まいを切り裂いていた。
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 塩尻で長野道に入り、中央道に合流して小淵沢へ。H氏ご夫妻を送り届けて再び中央道。折りしも東名高速の集中工事のあおりを受けて、普段よりも長距離の大型トラックが多い。でも渋滞も無く東京に戻ってこられた。隣町のW先生を自宅で降ろしてから我が家に到着。
 超豪華宿を巡るグルメの旅は終わった。

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