2007年6月27日(水)
第7日目 サンモリッツ–>オスピツィオ・ベルニナ–>ラーゴ・ビアンコ–>サッサール・マソーネ–>アルプ・グリュム–>サンモリッツ–>セガンティーニ美術館
Part3
列車が走り去って湖畔に静寂が戻った。少し先へ行った辺りで白い湖を仕切る、渋い石造りの堰堤の横に出た。ここから先は急な谷のような地形になり、その谷を縫うようにベルニナ線はアルプ・グリュムへと一気に高度を落としてゆく。
堰堤のすぐ下の少し小広い草地の中で道は二手に分かれていた。谷に沿うように下の駅に向かう左の道と、右に山肌を巻き込みながら高度を上げてゆく道とに分かれる。山へ向かう道の先には小さな山小屋がある。サッサール・マソーネだ。ベルニナ線に乗っていると、この辺りを過ぎて、パリュー氷河が車窓から望めるようになると、氷河の右手の尾根筋に一軒の山小屋が見えてくる。それがサッサール・マソーネだ。チーズとワインでも名の知れたその小屋に足を伸ばして見る事にした。
緩やかに山腹に伸びる立派な道をゆっくりと登る。時おり行き来するベルニナ線の列車を真上から俯瞰する。銀色の屋根と赤い車体のコントラストがグリーンの大地をバックに美しく浮かび上がる。
少し上りがきつくなってきたと感じ始めた頃、山肌を大きく回りこんでやっと小屋の建物が見えてきた。石造りの小さな建物と立派な小屋、そしてその右奥には覆いかぶさるようにパリュー氷河が迫っている。残念ながら天気がいまいちで氷河の上部はガスっている。しかし迫力十分だ。このくらいの歩きで、氷河を目の前にした小屋に来れる、これがスイスなのかと改めて感じた。
小屋は残念ながら閉まっていた。お酒が得意ではない我々の目当てはワインではなくて、この地方名物のスープが飲めれば良いなと思っていたから、閉ざされた扉を見たとき少しがっかりした。
小屋の前には尖がり屋根の石室が幾つか並んでいた。ワインとチーズが収められているらしい。そのワイン蔵の頭の先にはパリュー氷河が鎮座していた。天気のせいで薄青く光る本来の氷河の色を拝むことが出来なかったが、グレーがかった白い塊が雲につつまれていかにも寒そうな風景だった。
小屋のテラスで一休み。山肌をくねくねと蛇行しながら谷を下る線路が一望できる。ポスキアーヴォ辺りまでも見ることが出来た。
一息ついて下山開始。このまま一気にアルプ・グリュムへ向けてストレートに下るルートもあるが、一度来た道を分岐まで戻る事にした。戻る途中で今朝方一緒に駅で降りた日本人のグループとすれ違った。
分岐に戻り、メインルートをアルプ・グリュムに向けて歩きだす。戻った理由はこの辺りで列車を間近で撮影したかったのだが、時間が合わず断念。サイクリストも通る広い林道のようなパノラマコースをのんびりと歩いた。歩いている人も大分多くなってきた。ツアーの人たちとも前後する。
道が尾根を越えるような形でパリュー氷河が良く見える場所に出た。さっき居たサッサール・マソーネからの道が右手から合流し、トンネルを抜けた線路がここで顔を出していた。氷河・線路・赤い電車・・・RhBの写真集などでよくお眼にかかるポイントの一つだった。当然ここで小休止。列車の通り過ぎるのを待つ事にした。
ツアーの人たちが来た。ツアコンらしき人が大きな声で号令をかけた。
「ここで小休止します。ただし5分間です。すぐに行かないと次の列車に乗れません。乗りそこなうと1時間後の列車になります!よろしくお願いします!」
スイスの列車は1時間に1本と言うパターンが多い。人気路線のベルニナ線も然りだ。たしかに1時間は大きい。でもここで費やす1時間の価値は?
我々は1時間でも2時間でも費やせる限りその場を楽しむ事にした。やがて車輪がレールを軋ませる音が響いてきた。カメラを構え列車の到着を待った。氷河をバックに赤い車体がファンダーを横切って行った。
(続く)